M&Aによる新規事業開拓

 エネルギー業界で培ってきた基盤をもとに、新たな成長領域を模索する中、社会インフラ分野への進出が具体的なテーマとして浮かび上がりました。単なる多角化ではなく、将来の社会課題に応える事業を育てたい──そんな思いのもと、M&Aによる新規事業開拓に取り組むことになりました。

求める候補企業

 検討していた候補は、技術力を有し、全国規模で事業展開している企業です。また、高い技術力を持つだけではなく、未来をともに築く柔軟な経営マインドを持つ相手であることも重視していました。アドバイザーとは、こうした要件を事前にすり合わせ、中長期戦略の共有を徹底して行いました。

 その結果、ご紹介いただいたのが、九州を拠点に全国で深度掘削事業を展開している土木会社でした。深度掘削というニッチでありながら社会インフラに不可欠な領域に特化し、数々の実績を重ねてきた企業と知ったとき、自然と期待が高まったことを覚えています。

売却ニーズだけでなく真の課題を把握した上での意思決定

 出会いは、まさに絶妙なタイミングでした。売り手企業は、大型掘削設備の更新を控え、今後の設備投資負担に不安を抱えていた時期でした。資金力のあるパートナーと組むか、単独でリスクを背負うか、そうした選択を迫られる中でのM&A提案となりました。

 この背景を正しく把握できたのは、表に出ている情報だけに頼らず、アドバイザーの独自のネットワークを通じ、売り手企業の内部事情や現場の温度感を丁寧に拾い上げてくれたおかげで、単なる「売却ニーズ」だけではなく「真の課題」を把握することができました。

 そのため、表面的な数字やスローガンに惑わされることなく、冷静に事業のポテンシャルとリスクを評価することができました。売上、利益に加え、主要取引先、リスク要因、設備の老朽化状況まで網羅的に検証し、経営層との意志疎通も重ねたうえで、慎重に買収判断へと進むことができました。

 スピード感を保ちながらも、一つひとつの判断を大切に積み重ねたことが、短期間での意思決定を可能にした要因だと感じています。

経営者の覚悟と企業体質の透明性

 この案件がスムーズに進んだ最大の理由の一つは、売り手側の準備度の高さにありました。売却を意識した経営が数年前からスタートしており、財務・労務・法務といった基盤整備が既に整っていたのです。

社長自身が「いつかは誰かに託す日が来る」と覚悟を決め、社内の透明性向上に努めてこられたことも、大きな安心材料となりました。財務情報の開示は迅速かつ正確であり、コンプライアンス体制も万全。デューデリジェンスの過程でも、隠し立てや後出しが一切なく、信頼関係の構築が短期間で進んでいきました。

 こうして、売り手企業が「売却を前提とした体制づくり」を進めていたことが、リスクを最小限に抑え、安心して前向きな意思決定を行うことにつながったのだと思います。

買収後は、エネルギー事業とのシナジー創出を目指し、両社の技術や顧客基盤を活かした新たなプロジェクトを複数立ち上げることができました。新領域での事業拡大という目標に向けて、着実に歩みを進めています。

成功の要因まとめ

 今回のM&A成功の背景には、いくつかの大切な要素がありました。
一つ目は、進出したい領域と中長期的な戦略が明確であり、それをアドバイザーとも共有できていたことが大きな強みとなりました。ターゲット像がぶれることなく、最適な相手と効率よく出会えたのです。

 二つ目は、売り手企業の表面的なデータにとどまらず、現場の温度感や課題感まで丁寧に掴み取ることで、リスクを正しく見極め、迅速な意思決定につなげることができました。

 三つ目は、売り手側が数年前から管理体制を整備し、M&Aに備えた企業体質を作り上げていたことも大きな要因でした。情報開示やデューデリジェンスがスムーズに進み、短期間で強固な信頼関係を築くことができたことが、結果に直結しました。

こうした準備と信頼の積み重ねが、慎重さとスピードを両立させ、双方にとって満足度の高いM&Aを実現する要因になったと感じています。

この成功体験を礎とし、これからも明確なビジョンと確かな実行力をもって、新たな成長の機会を一つひとつ大切に切り拓いてまいります。

 今回のM&Aを成功に導くことができたのは、私たちの想いを深く理解し、単なる取引ではなく「未来を見据えた最良の選択肢」をともに考え続けてくださったアドバイザーの存在があったからにほかなりません。常に一歩先を読み、的確な提案と丁寧なサポートを重ねていただいたことに、心より感謝しております。これからも、パートナーとして信頼できる存在でいていただきたいと願っています。